(コラム)小泉純一郎の戦略コミュニケーションの本質3:小泉流50/50(フィフティー・フィフティー)の原則

小泉総理大臣在任期間中の支持率はほぼ50%ラインの前後で推移してきた。

支持率が下がってくると小泉流サプライズを通じて支持率回復を図るというのが小泉政権のひとつのパターンである。サプライズとは意外性の演出である。小泉流意外性の創出には3つの特徴がある。

1.新しいものを取り入れる。
小泉メールマガジンの発行、e-Japan構想の発表、首相官邸でのぶらさがり会見など新たな試みを仕掛ける。日本のヴィジュアル系バンドの元祖であるX JAPANと小泉純一郎という組み合わせは実に妙である。

2.タブーを破る。
北朝鮮への電撃訪問、自衛隊のイラク派遣、靖国参拝などはタブーへの挑戦である。まだ若手で実績のない安部晋三を幹事長に任命するのもある意味この範疇である。

3.逆説的に行動する。
自民党の総裁でありながら自民党を批判する、総理でありながら霞ヶ関官僚組織を叩く、解散は不利と言われながらも解散するなどの“利”または“理”に合わない行動をとる。

小泉サプライズの狙いは強烈な反動を創り出すことである。その反動を利用して自らの存在感をアピールする。サプライズによって衝撃的なメッセージを打ち出し、50%は反対にまわるが、その反作用をテコにあとの50%をキープする。波風を立てるのが小泉流コミュニケーションである。日本的ではない。日本のコミュニケーションの伝統はなるべく波風を立てないことである。間接話法である。小泉流直接話法は欧米的といってよい。小泉流コミュニケーションの凄さは波風を立てるものと立てないものを峻別していることである。世論が二分される様な問題、つまり支持・不支持が50%ラインにならざるおえない問題において敢えて波風を立てる。50:50で勝負をかけてくる。その覚悟がある。30:70でも70:30でもない。世論を二分できないもの、50/50(フィフティー・フィフティー)にならない問題に関しては立場をとらない。解説的に話す、当事者意識がないと言われようと構わない。50%の人々が反対することによって、小泉メッセージは精彩を放つ。それをばねにメッセージ性を高めるのが小泉流50/50(フィフティー・フィフティー)の原則である。そこには最低でも50%ラインの支持率があれば自民党の派閥力学に勝てるという目算がある。

小泉流メッセージは映像が命。

政治家としてのメッセージ性の高さということでは小泉純一郎と菅直人が東西の両横綱である。しかしながら二人のメッセージ性の高さを支える構造が違う。菅直人はひとつのメッセージを伝えるのに多くの“ネタ”を持っている。そしてそのネタが必要に応じて機関銃の如く連射される。ネタとは経験、事実、事象、情報などである。ひとつのメッセージの下に多くのネタが論理的に、体系的に整理された構造をもっており、それが必要に応じてメッセージを伝えるために引き出せる思考回路をもっている。これが菅直人のメッセージ性の高さを支えている。小泉純一郎の場合はここで言うネタが少ない。逆にメッセージの言葉化が上手い。言葉化とはメッセージを簡単な言葉でキャッチコピー化する、理屈抜きの面白さを含んだ言葉、共感を与える言葉、誰でもが知っている一般的な表現だが小泉流の文脈のなかでは異彩を放つ言葉などである。文章ではない、言葉である。文章であれば、多くの言葉を理路整然と並べなければならない。言葉であれば、前後の脈略はどうでもよい。その言葉そのものが前後の脈絡を勝手に作ってしまうほどにメッセージを含蓄した言葉化が小泉は上手い。これが小泉のメッセージ性の高さを支えている。小泉流は10秒でメッセージを伝える。10秒の世界に生きている。小泉純一郎は映像に強い。菅直人は討論に強い。小泉純一郎は印象で勝負する。菅直人は論理で勝負する。国会などでのふたりの討論を見ていると、分は菅直人にある、しかしテレビで放映された映像では小泉純一郎のほうが強い印象を残す。映像目線が小泉メッセージの根幹を成す。