無党派層が動く、小池陣営有利な事態に(後編)

後半戦に入って小池陣営には2つの懸念事項があった。
1つは無党派層が小池支持に動くかどうか。党組織のサポートは無い。組織戦では勝てない。この弱点を無党派層の支持を取り付け封じ込めるしかない。
幸いに舛添問題の過熱報道によって既に都知事選に関する世間的な関心はかなり高い。選挙期間中もそれを引きずる。更には桜井パパへの注目、小池百合子の立候補、自民党分裂の状況、小池・増田・鳥越の三つ巴の形勢など世間の関心を引く素材に事欠かない。
結果、無党派層が動く。投票率も上がる。小池陣営有利な事態になる。

最大の懸念、野党候補は誰?

ところが小池陣営が勝つ上でもう1つ懸念項目あった。
前半戦で築いた「初の女性都知事」vs「自民・自民党都連」の選択の構図を後半戦も維持できるかどうか。
自民党都連が既に「悪役」としてレッテルを貼られている中ではこの構図は小池候補にとって優位な立ち位置を担保してくれる。無党派層は既に動いている。知名度低く組織戦依存の増田候補は怖くはない。
この段階での最大の不確定要素は後半戦に入っても野党側の候補の顔が見えないことである。この意味では野党の究極の後出しジャンケンは功を奏している。
選挙後半戦は空中戦が死命する状況にある。増田陣営は元タレント議員を動員、認知度アップを謀るが知名度の差はどうしようもない。
ところが、仮にここで空中戦に強い知名度のある野党候補が出ると状況は一変する。せっかく築いた選択の構図を壊されかねない。

小池百合子に女神が微笑む。致命的に“ズレ”た野党候補

最後の最後で野党側はジャーナリスト鳥越俊太郎を候補として打ち出してきた。
知名度ということでは小池百合子に引けを取らない。出身もジャーナリストで小池候補と同類である。

この段階での鳥越候補のマイナス要素を敢えて挙げれば
① 前半・後半戦を通じて「後出しジャンケン」に対する批判報道がかなりなされていた。
② 鳥越候補の76歳という歳の問題である。2020年のオリンピック・パラリンピックでは80歳の大台に乗る。大丈夫かという印象を与える。
③ 鳥越候補に一本化する過程で野党側がかなりごたついた印象を残す。

しかしながら、この段階では小池vs鳥越は互角と言っていい。
鳥越陣営の最大の失敗は鳥越候補の最初の「一声」にある。その内容は致命的に“ズレ”ていた。
立候補する理由を聞かれ、開口一番「参院選で自民党が勝ったから」「このままでは日本は危ない」など連呼、掲げた政策も「安保法制反対」「脱原発」「非核」といった内容で参院選の延長線上での「発信」である。
都民感覚からすれば“ズレ”ている。正に「江戸の敵を長崎で討つ」である。しかも「脱原発」は都知事選ではメッセージとして“効かない”ことは既に前回の都知事選で細川護煕候補が実証済み。
その後、鳥越候補のメッセージ発信は“都政”よりに修正されるがもう遅い。選挙では「終わりよければ全て良し」ではない。「始めコケれば全て無し」が鉄則である。
選挙の要諦は有権者に候補者にとって有利な争点を早く思い込ませることである、アジェンダ設定をすることである。第一声は選挙コミュニケーションにおける戦略上の要である。

石原慎太郎元都知事の発言を応援歌にする小池流発信の“強かさ”

一方、後半戦では小池候補の発信の“強かさ”が目立った。先ずは全体的に「失言」が少ない。
唯一の失言は鳥越候補に対する「病み上がり」発言。また戦略コミュニケーションの技術論から見ると“ブリッジング”が身についている。
ブリッジング(bridging)とは相手の質問を利用してこちらのメッセージを発信する技である。人は質問を受けるとそれに答えようとして、知らぬ間に相手の術中にはまりボロボロにされる。
ブリッジングとは“つなぐ”という意味。質問を受けたら、答える前に自分のメッセージに“つなぐ”、そして答える。質問に答える前にワンステップ置く。そこで自分のメッセージを確認する。このワンステップを意識するだけで発信力は飛躍的に高まる。
もともとは質問を武器に相手から話を聞き出そうとするジャーナリストに対抗する上で考えられた手法である。
この手法は頭で分かっていてもなかなかできない。実践の中で培うしかない技である。小池候補の場合、ブリッジングがある程度身についており、他の候補やキャスター、記者などからの質問にあまり惑わされない。
相手の発言を利用する面でも強かな片鱗を見せる。石原元都知事が自民党都連に応援に駆けつけ「大年増の厚化粧」と小池百合子を揶揄する。小池候補はこの石原発言を街頭演説でのネタにする。
批判するのではなく、ユーモアを持って「厚化粧です」と認めた上で、透かさず男性上位の自民党都連の体質を攻める。「いつの間にか男同士の密室で会議が行われて、結論が出されて、日本が正しい方向に行っていたでしょうか?おっさんの論理でこれからも日本が突き進むのでありますか?日本はおっさんの論理でずっとやっていけば、必ず他の国にもどんどん追い越される」と。

小池百合子流「勝利の方程式」、”エアーポケット”を見つけよ!

下降気流のため飛行機が急に下降する空域をエアーポケットという。
選挙にもエアーポケットがある。そこに上手くはまると逆に上昇気流にのることができる。ところが、選挙のエアーポケット現象はいつも出現するとは限らない。幾つかの条件を満たすことが必要である。

経験上、最低でも4つの要素が整うことが重要である。
① 先ずは有権者から見て二者択一の互角の選択構図が出来ているかどうか。今回の都知事選の場合は、民進、共産を中心とした野党共闘が実現、一様に与党(自民党・公明)vs野党(民進・共産)の二者択一の構図が出来る。どちらかの選択肢しかないと一旦有権者は思い込む。
② そこで次に重要なのは、そのどちらの選択枝も“パッとしない”ことである。増田候補は自民党都連の全面サポートのもと今までの都政の延長線上と見られる。都政の革新には程遠い。鳥越候補は都政を国政の延長線上で考える姿勢に多くの人が違和感を持つ。都政の革新どころか混迷かと疑われる。選ぶ方からは“どっちもどっち”という状況である。
③ 後はそこに強烈な個性と発信力を持った第三の候補の出現である。小池候補がまさにこのポストを仕留める。自民党とは程よい距離感を保ちながら独立自尊、弁が立ち大臣経験者、さらにはメルケル、クリントン、メイなど女性政治家が世界を賑わせている中で、日本でも女性都知事かという雰囲気の中で、従来の延長線上にない第三の候補者として浮かび上がってくる。
④ 最後に、前提条件ともいえるが、空中戦が選挙の死命を制する状況にあること。空中戦無くしてエアーポケット現象は起こらない。二者択一の選択肢に辟易しているところに第三の道があるという思い込みを有権者の中に早く広く生じさせる戦略兵器はテレビなどのマスコミやネットによる空中戦である。
ここでは組織戦は無力である。この意味で「先出しジャンケン」で選挙前半において空中戦を主戦場に設定した小池陣営の動きは当たっていた。もともと「後出しジャンケン」も同じメカニズムで有権者が辟易したところに新たな第三の候補者を最後に出す方式であるが、その際に重要なのは候補者の選定である。しっかりとこのエアーポケット現象で浮揚できる素質を持った候補者を選ぶことである。

今回の都知事選は小池百合子候補者が戦略的か偶然かはわからないが、結果としてこのエアーポケットに上手く“どんぴしゃり”と便乗出来たことでが大きな勝因である。

  •  田中 愼一

    プロフィール 1978年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、本田技研工業株式会社に入社。ワシントン事務所にて米国における政府議会・マスコミ対策を担当した後、1985年には日米自動車貿易摩擦が大きな問題とな...

    プロフィールを見る