都知事選、小池百合子流「勝ちの方程式」(前編)

小池、増田、鳥越と三つ巴の都知事選は小池候補圧勝で決まった。
小池陣営の戦略や意図がどのようなものであったのかはわからないが、戦略コミュニケーションの発想から見ると、そこには勝つべくして勝った構造が見えてくる。

舛添問題で都民が見た都政の風景とは

舛添知事辞任に至るまでの一連の流れは危機管理コミュニケーションの視座からも興味深い。
記者会見をやる毎に炎上する。1回目のクライシス会見で墓穴を掘り炎上することはよくある。普通は学習効果によって2回目以降やり方を正す。しかしながら、6回行われた舛添会見の場合は回を重ねる毎に炎上する。所謂「墓穴を掘りまくる」。
最後の最後まで往生際が悪い。有事には有事のコミュニケーションの原理原則がある。舛添流有事対応は全くそれに逆行する。
更に事態は知事の問題だけにとどまらない。共産党を始めとする野党都議による舛添下ろしが盛り上がる中で与党側の動きが鈍い。これが結果として舛添知事と与党都議は一蓮托生という印象を都民に与える。
加えて、同じ時期に東京オリンピック開催に伴う費用が予算を大幅に上回る事態が連日報道される。その中で野党も含む都議団がリオ・オリンピックへ豪華な視察団を派遣することが露呈する。都民の関心は舛添知事の金の問題にとどまらず、都議会も巻き込む都政全体への不信へと広がる。
今回の都知事選は、「都政への不信」という風景の中で、都民に対してどのような選択の構図を見せられるか、そこで最も映える候補を立てられるかを探る戦いである。

与党側動く。行政のプロを模索、「政治家」vs「行政のプロ」の選択の構図を狙う

先ず動いたのは自民・公明の与党である。前回都知事選で舛添支持をしただけにその動きは速かった。「都政への不信」=「今までの延長線上の候補ではダメ」という都民感情を捉え、政治家ではない行政のプロの候補擁立に舵を切る。
そこで目をつけたのがジャニーズ嵐の桜井翔の父親である桜井総務省事務次官。地方自治体を管掌する総務省の行政プロナンバーワンである。若手世代へのアピールや桜井翔の知名度を利用した空中戦の展開なども可能だ。
野党側の候補に政治家の名前がいろいろと音沙汰されるのを横目に「政治家」VS「行政のプロ」という構図の作り込みに走る。この段階では自公与党側は一歩リードする。ところが、ここで2つの誤算と想定外が生じる。
桜井氏が辞退する。更には、自民党の意に反して小池百合子自民党議員が立候補を打ち上げる。

小池候補「初の女性都知事」VS「自民・自民党都連」の選択の構図をつくる

選挙で勝利する基本は有権者に対する選択の構図を相手に先駆けてつくれるかどうかだ。
小池陣営は“先出しジャンケン”で与党側がつくろうと腐心する「政治家」VS「行政のプロ」の構図を崩す。
立候補する旨を早々に打ち出し、推薦を求め自民・自民党都連を追い込む。怒りで困惑する自民党都連を尻目に自民からの推薦拒否に乗じて「個人」vs「党」という構図をつくった。
この段階で都知事選挙の“建て付け”が変わる。
それまでは自民・公明vs民進・共産の「党」vs「党」の二極対立になっていた形勢に「個人」が参戦する三つ巴の形になる。その中から「個人」の土俵に立った小池候補が精彩を放ち始める。
参院選の延長線、党利党略の主戦場と化している都知事選は批判の対象になっており、それが小池陣営の追い風となる。一方、野党側の動きは混沌とし、その存在感が無い。自ずと「小池百合子」vs「自民党都連」の構図が浮き出てくる。
おまけに自民都連がますます“悪人面”になってくる。報道される自民都連の議員はほとんど「男性」。しかも石原自民都連会長、内田自民都連幹事長など「悪役」を演じる名優が揃っている。
巨大与党組織に1人毅然と立ち向かうジャンヌ・ダルク小池百合子というドラマが展開される。
外からも風が吹く。イギリスではテリーザ・メイ女性首相誕生、アメリカではヒラリー・クリントン大統領候補の連日の報道など小池候補にとってはこれも追い風になる。
更に重要なのが、与党、野党の正式候補が決まらない中、小池候補の武器である知名度を最大限活用する。マスコミ報道を囲い込み空中戦一人舞台を演じる。まさに“先出しジャンケン”の妙である。

前半戦で小池陣営は空中戦に措いてかなり優位な立ち位置を築くことに成功する。空中戦が効く無党派層が動けば小池優位という状況を作り出した。

(後編に続く)

  •  田中 愼一

    プロフィール 1978年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、本田技研工業株式会社に入社。ワシントン事務所にて米国における政府議会・マスコミ対策を担当した後、1985年には日米自動車貿易摩擦が大きな問題とな...

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