オバマのコミュニケーションは救世主になるか?

「智に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。

兎角(とかく)に人の世は住みにくい。」

夏目漱石の「草枕」の冒頭の言葉である。

「兎角に人の世は住みにくい!」という叫びは夏目漱石の声である。

漱石が生きた明治初期の時代は、どうも神経衰弱になるほどに人との関係に気をもむことが多かったようだ。

江戸時代、「士農工商」という身分制の中で、移動の自由が制限されていた時代から「職業選択と移動の自由」が保証された明治時代へと移る中で、どうも人との関係をつくる「煩わしさ」が飛躍的に増えたようだ。

「職業選択と移動の自由」とは、いいことだとは思うが、一方で、職業がかわる毎に、部署がかわる毎に、住まいがかわる毎に、様々な人々との関係を築き、その都度うまくやっていくことが求められる。

江戸時代のような封建社会の方が案外、人間は関係構築の「煩わしさ」は少なかったかもしれない。出会う人の数も制限されており、シキタリ通りにやっていれば人間関係もうまくいった。

転じて、我々が住む現代社会を見ると、どうも人との関係にともなう「煩わしさ」は漱石の時代と比べると幾何級数的に、間違いなく増大している。

心療内科が流行るのも無理はない。「いじめ」が流行するのも関係をつくる「煩わしさ」への免疫性が低下している兆候であろう。

今や、一人の人間が一生のうちに出会う人の数は、人類が経験したことのない未知の領域に間違いなく突入している。

更に、この状況を加速しているのが、多様性の問題である。これから世界はますます多様性のあるものになってくる。

多様性というと「アメリカだ!」と思いがちだが、とんでもない、同じ日本人の顔をしていても、価値観、モノの見方、考え方、大きく多様化している。

多様性は様々な個性や才能をもった人々が出てくることによって、「イノベーション」や「技術革新」を生むが、一方で、様々な個性、考え方の「対立」や「分裂」の温床になる。

関係性の「煩わしさ」(ストレスといってもいい)の元凶になる。

「私たちはストレスの海で漁をしている漁師のようなものだ。ストレスの波しぶきをかぶらないで仕事はできない。その中でどう元気に生きていくか。問題はそこにある。」

作家の五木寛之の言葉である。ここで重要なのは「どう元気にいきていくか」ということであるが、どうも自分には前述したように「オバマ現象」に一つのヒントがあるように思えてならない。

多様性のある社会であるが故に、「対立」と「分裂」に苦しんでいたアメリカ人をあれほどまでに「元気づけた」オバマのコミュニケーション力とは何なのか。その方程式を解いていきたい。