「火のないところからも煙はたつ」 クライシス・コミュニケーションの視点から(3)

クライシス・マネジメント(危機管理対応)は大きく分けて3つの部分から成り立つ。

(1)まず、クライシスによって引き起こされた“火”を消すか。(災害復旧、被害拡大防止などのDamage Recoveryのための対策の実施である)

(2)次に法令順守(リーガル・コンプライアンス、Legal Compliance)、つまり法的に問題がないように対応する。

(3)最後に被害者を含む利害関係者、及び世間や社会に対して、コミュニケーション対応をとる。

過去10年の日本における企業不祥事を調べてみると、ほとんどの企業が(1)、(2)においてはそれ相応の対応が取れているのに対して、(3)のコミュニケーション対応が全くと言っていいほどに適切な対応がとられていない。

被害者などの利害関係者や世間とのコミュニケーションの取り方に失敗し、クライシスが拡大(“墓穴”を掘っている)しているところを見ると、クライシス・マネジメント(危機管理対応)において如何にコミュニケーションが重要な役割を担っているかがわかる。

特に「法的に対応していれば十分」といった態度をとる企業が目立つ。

ところが最近の諸々の企業不祥事を見ていると、法令遵守はしっかりとやっていてもテレビなどのマスコミに散々たたかれ、火だるま状態になっている企業の姿をよく目にする。

これはソーシャル・コンプライアンス(Social Compliance)の視点が欠如しているのである。

ソーシャル・コンプライアンスとは「社会的な視点」、言い換えれば「世間的に見て」その対応が納得できるかどうかである。

ところが、この“ソーシャル・コンプライアンス”が実に難しい。リーガル・コンプライアンスの場合は、法律という明確な尺度がある。

その尺度にそって行動していれば、間違いはない。

ところがソーシャル・コンプライアンスとなると明確な尺度がない。

それでも被害者などの利害関係者であれば、補償などの“利害”に訴えることによってある程度解決の糸口が見えてくるが、利害関係のない不特定多数の人々のパーセップションである世間や世論はそうはいかない。

“世間”を納得させる尺度というものはその時代時代で絶えず変化する。

10年前であれば世間的に問題がなかったことが、今では“反社会的”と非難されるケースが多い。

尺度が一定でないため、その都度、どのような判断基準をもってメッセージを発信するかが“炎上”を回避できるかの“鍵”を握る。

その重要なポイントは、前述した“主張しない”ということと重なるが、リーガル・コンプライアンスを盾に“主張”しないということである。

“法的に問題がないのだから”、“悪いことはしていないのだから”といった法令順守を全面に出して“主張”することである。“法的には問題がなくても、世間的には問題がある”といったことはいっぱいある。

小沢民主党代表がテレビの報道で「犯罪的、違法的なことは一切やっていない」といった“主張”を過剰に強調することは得策ではない。

法的に問題があるかどうかの真偽はともかく、すでに“政治不信”という“被害”を国民に与え続けているのである。

事実の真偽よりも、まず、この“政治不信”という被害の拡大をどう食い止めるのか、当事者意識をもったメッセージ性がほしい。

ソーシャル・コンプライアンスの視点からのメッセージ発信が求められる。