中国のレピュテーション・マネジメントを問う ~日本が学べる教訓~

戦略コミュニケーションの視点から見た尖閣諸島問題における勝敗は中国の敗北であった。しかしながら、日本が勝利したかというと“微妙”である。ある意味、国際世論という“神風”が吹いて、辛うじて“勝利”したといったところである。

それに比べ、中国は手痛い敗北を帰してしまった。世界における中国のレピュテーションの毀損は甚だしく、中国にとっては甚大な被害である。中国は戦略コミュニケーション上、次の手が打てなくなった。

「責任はすべて日本側にある」、「日本側が直ちに無条件で(逮捕された船長を)解放することを強く求める」と9月23日に強硬な発言をしていた温家宝首相が、12日後のASEM会議における“温家宝、菅両首脳廊下会談”において、かなりトーンダウンした。

この落差が中国がコミュニケーション的に追い詰められていた証拠である。それに比べると、“弱腰的”ではあると批判されながらも、一貫性においては日本の方にまだ理はある。

日本の弱腰外交というイメージを世界に露呈してしまったと批判されているが、中国が受けた“実害”と比べれば大したことではない。弱腰外交と言われて、日本人のプライドは傷つくかもしれないが、日本人、日本の企業、そして日本政府の世界での活動を規制する、牽制するような力学は働かない。

しかし、中国は違う。中国人、中国の企業、中国政府の世界で活動を規制する、抑制する動きが今後出てくる。東シナ海に限らず、南シナ海においても日米や東南アジア諸国は中国に対する監視体制を強化してくる。実際に10月12日に予定されているベトナム、ハノイでのASEAN、日米中ロ8カ国による拡大国防相会議での共同宣言案の中に中国を牽制する内容を織り込む動きがすでに出始めている。

レアアースについても、今後中国のもつ90%の供給シェアは、各国の調達源の多様化策によって間違いなく下がっていく。元の切り上げ交渉などを含むアメリカとの通商問題においてもアメリカ世論の硬化は中国にはプラスには働かない。今回の尖閣諸島の問題で中国はそのレピュテーションを深く毀損した。それは中国の世界での活動に“実害”として様々なマイナスの影響を及ぼしている。

なぜ、中国はこのような事態に陥ってしまったのか。今回の尖閣諸島をめぐる両国の対立は何を残したのか。日本は尖閣諸島の問題から何を学べるのか。戦略コミュニケーションの視点から分析する。