中国のレピュテーション・マネジメントを問う ~日本に神風が吹いた!~

ところで日本側はどうであったか。“神風”が吹いた。「日本は弱い」、「日本はダメだ」、「日本はもっとしっかりとしろ」という印象を、特に日本国民に与えたのは事実だが“実害はない”。

一方、中国には“実害があった”。世界から“嫌われた”ことである。その結果、世界中で中国に対する風あたりが強烈なほど強くなり、中国の資源外交や中国企業の世界進出に大きな支障をきたし始めた。

中国がこの状況に慌てだした兆侯が表れたのは10月4日に温家宝首相と菅首相との間で行われたアジア欧州会議(ASEM)での非公式な“廊下首脳会談”の時である。その後の中国が発信したメッセージを見ていくと明らかに“強硬姿勢”が弱まっている。

まず10月6日、尖閣諸島周辺を哨戒していた中国の漁業監視船がその海域を離れる。
10月24日、中国外交部の馬朝旭報道官が定例記者会見で日中戦略的互恵関係の維持・推進を確認する。
10月30日、東アジアサミット(EAS)で、中国側が首脳会談を前日にキャンセルするも、開会前に菅・温家宝首相の懇談が実現する。
10月31日、上海万博最終日、温家宝首相が日本人の「万博おばちゃん」について言及する。
11月5日、インターネットの動画投稿サイトYouTube(ユーチューブ)に中国漁船衝突のビデオ映像が流れたが、これに対して中国政府は日本を直接非難せず。
11月12日から横浜で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)での菅直人首相・胡錦涛国家主席首脳会談は調整中だか、現在開催中の広州アジア大会で11月8日の日本対中国のサッカー戦で中国当局が反日的動きを極力抑える。

今回の尖閣諸島の問題を総じて表現すると日本は「ダメだった!」、中国は「まずった!」、世界は「中国を嫌った!」といったところだろう。そしてその結果、中国は嫌われ、日本は嫌われなかった。

外交の基本は“嫌われないこと”である。“好かれよう”などとは思わないことである。“好かれよう”と思うとついついメッセージが強くなる。多極化する世界の中では、それは必ず反発を生む。逆に過剰な期待を創り出すこともある。

この場合は“期待はずれ”が命取りになり、結果として“嫌われる”ことになる。今回、中国ははじめから嫌われるコミュニケーションをとった。一方、日本は「ダメだ、ダメだ」と言われながらも世界からは嫌われなかった。

日本を攻め過ぎて嫌われた中国は、アメリカを日本支持に追い込んでしまった。これは中国にとって大きな誤算である。クリントン国務長官は2度までも尖閣諸島は日米安全保障条約の対象であることを明確にしている。

アメリカも中国の脅威の前に、日本支持にまわらざるを得ない。今回の尖閣諸島の問題では日本に神風が吹いたのである。