“覚悟”を伝えるための方程式と3つの行動(前編)(戦略コミュニケーションで斬る*第4回)

今の日本の政治的混乱は政策の問題というよりも国民とのコミュニケーションの問題により起因している。

国民の空気が読めない日本の政治の問題である。結果として国民の政治に対する被害者意識を生み出し、国民が政治に対して聞く耳を持たなくなってしまった。

国民の被害者意識を払しょくし、当時者意識を醸成しないと日本の政治の半身不随の状況はつづく。空前の財政危機、社会保障制度の崩壊、経済活力の停滞などの大きな課題を乗り越えるためにはどうしても国民の当時者意識を醸成することが必要不可欠である。国民の被害者意識を払しょくするには政治の覚悟を示すしかない。

国民は政治に今、覚悟を求めている。政策云々の話よりも民主党、自民党どちらが日本を変えるための“覚悟”があるのか、その本気度を見ようとしている。しかしながら、国民が今見ている日本の政治の風景は「民主党は支持率を上げることに汲々として、受け狙いの発信をしている、自民党は与党との協議に頑強に応じず、とにかく解散、解散と連呼、政権奪取を狙う」党利党略に走る政治の姿である。

事実の是非はともかく、国民にはそのように日本の政治が見える。これでは政治の覚悟など国民には全く伝わらない。一方、言葉で“覚悟がある”と連呼しても国民にとっては絵空事として映る。“覚悟”は唯一行動で示す以外にない。

企業クライシス・コミュニケーションという分野がある。その内容は企業が危機に直面した際にどのような立ち位置を取るべきか、そのためには誰に対して、どのようなメッセージを、どのタイミングで、どのような方法で伝えるかを指南するコミュニケーション・コンサルテイングである。企業が事故や事件を起こすとかならず「加害者 vs 被害者」の構図が生まれる。企業は“加害者”として一挙に色を塗られ、一方的な批判に晒される。

このようなクライシス・モードに入ってしまった企業にとって残された道は、事故や事件によって起こった被害を一刻も早く終息させるために、その“覚悟”をどれだけ示せるかである。これが状況を打開するための企業にとっての唯一の武器なのである。言い換えれば、「当事者意識をもって事に当たっている」という姿勢を強く示す以外に助かる道はない。(つづく)


*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。(前回の「戦略コミュニケーションで斬る」はこちらから)

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

☆twitterアカウント:@ShinTanaka