「国益」に繋がるメッセージ発信 ~ドイツはいかにしてEUでの信頼を取り戻したのか~(コミュニケーション百景 第15回)

日本とドイツは第二次大戦の敗戦国として近隣諸国との関係に苦労した国である。

日本が戦後60年経ってもまだ、中国、韓国の国々と関係がギクシャクしているのに対してドイツは今やEUの中心国として位置づけられている。

EUでの強い存在感を背景にイラク戦争への反対表明など超大国米国に対して一定の距離を置くことができる外交を展開している。

ドイツはかって侵略をしたフランスやポーランドとの関係を戦後一早く修復した。

対独戦争で最も大きな被害を受けたといわれるロシアとも関係を強化、それを背景にロシアとEUとをつなぐ役割を積極的に担っている。

ドイツはロシアとEUとをつなぐという役割を通じてEU内での独自の立場を構築するとともに、米国とも対等な立場を保つなどドイツの「国益」に直結した外交を実現してきた。

ドイツの外交力の要は相手視点に立ったメッセージ発信である。

2005年4月16日、17日付仏フィガロ紙にワルシャワのユダヤ人強制居住地区跡の慰霊碑の前でひざまずいて謝罪したブラント独元首相と靖国神社参拝を続ける小泉首相とを対比した記事が掲載された。

ドイツと日本の戦後の隣国への対応の違いを揶揄したものだが、ドイツの戦後の復興は単に経済的なものだけではない。

外交の面でも過去に対する真摯な反省という一貫したメッセージを発信し続けることによって、EUの中心国としての確たる信頼を醸成してきている。

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

☆twitterアカウント:@ShinTanaka