クライシス・コミュニケーションの洗礼を受ける中国政府・前編(戦略コミュニケーションで斬る*第20回)

クライシス・コミュニケーションの洗礼を受ける中国政府。

今回の高速鉄道事故への対応は中国政府のクライシスでのコミュニケーション力の脆弱性を露呈する結果となった。従来、中国は対外的には攻めのコミュニケーションを行ってきた。海外に強いメッセージを出すことによって、世界を牽制、一方で海外に強い姿勢を示すことによって国内に鬱積した不満の解消を図ってきた。中国のコミュニケーションの基本戦略は、あくまでも対外的な威信の確保であった。それによって国内の不満を抑える意図があった。

日本とぶつかった尖閣諸島の問題においても、このコミュニケーションの基本戦略を踏襲、当初は日本に対して強硬な姿勢を示し続けた。ところが、想定外だったことは国際世論が、中国の強硬姿勢に反発、結果、中国の資源外交は行き詰まり、中国企業の海外進出に海外からの反発を生み、中国自身が「実害」を被る。

今回の高速鉄道事故においても、中国のコミュニケーションの基本戦略は変わらなかった。

その目標設定は、あくまでも対外的な威信の確保であった。

とにかく、早く復旧、高速鉄道を始動させる事が対外的な威信の確保につながると判断、その基本戦略で動く。事故車両を埋めたのも、復旧を急ぐという脈絡からは理解できる。ところが、尖閣諸島問題と同じように、再び想定外の反発が起こる。尖閣諸島問題の時は国際世論だったが、今度は国内世論である。この想定外な展開に中国当局は翻弄される。温家宝首相が6日後とかなり遅れて現地入りした事が事態の進捗が想定外であった事を象徴している。

中国のコミュニケーションの基本方針は対外的な威信の確保である。

とにかく、早く再稼働する事が至上命題である。そのため、原因究明のプロセスを疎かにする。はじめは落雷によると発表、次に信号機故障したと修正、最後にはソフト設計のミスにより自動停止装置始動しなかったと説明が二転三転する。この説明の一貫性の無さが不信感を煽り、政府当局に対する世論の怒りを加速させる。

中国は攻めのコミュニケーションから守りのコミュニケーションへの戦略転換が求められる。

従来のような対外的的な威信の確保という基本路線では対応できない状況変化が起こっている。状況変化とは世界第二位の経済大国になることで海外の目が厳しさを増す。ますます大人の国として行動することが期待されて来る。国内も同じである。

経済発展は人々の意識を変える。政府に対してより透明性を求める声が大きくなってくる。政府活動の透明性への期待が高まって来る。また、マスメディアが変わってくる。今回の注目点は中国メデイアが引いていないことである。かなりひつこく当局を攻めている。さらには、ソーシャルメデイアが、当局の規制強化にも関わらず、その動きを強めている。(次回へ続く)

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*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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