リーダーシップと対話力(孫子を実践的に読み解き直す2)

リーダーシップの本質は相手を動かすことである。

リーダーは様々な相手を事業戦略実現のために動かす。社員、組合、顧客、取引先、政府当局、投資家、地域社会、世論などである。所謂、ステークホルダー(利害関係者)である。リーダーは対話で相手、すなわちステークホルダーを動かす。

対話とは相手の意識への働き掛けである。対話を通じて何らかのメッセージが相手に伝わり、その意識が変わる、相手が動く。対話とは人を動かす力の行使とも言える。対話力の是非がリーダーシップ発揮の有無を決める。

しかしながら、リーダーの対話力だけではステークホルダーは動かない。リーダー自身の対話力に加え、自らが率いる組織の対話力を高めることが事業戦略実現に向けてステークホルダーを動かす鍵を握る。

自分の対話力と同時に組織の対話力を築くことが、これからのグローバル・リーダーには求められてくる。

慨して日本のリーダーは欧米、中国、韓国、インドなど世界に比べると、相手を動かす対話力に対する認識が低い。

先日、日本の主要なテレビ、新聞、経済誌の記者に調査、日本企業トップの取材での対話力を聞いて見た。ダントツ・トップが日産のカルロス・ゴーン氏であった。日本人の経営者ではなかった。ゴーン氏はリーダーとしての対話力が優れているだけでなく、日産という組織の対話力も高めたことが評価されている。着任早々、まず手を付けたのが社内外の広報体制の強化である。日産が直面する窮状を乗り切る上で組織の対話力が必要だった。

GMの再生を果たした元会長のウィデカー氏も組織の受信と発信機能を一元化したコミュニケーション部門をCEO直属とし、GMの対話力の強化を推し進めた。連邦倒産法の適用、巨額の公的資金を投入などあらゆる利害関係者、更には世論との対話が企業再生成功への鍵を握ったからである。

日本では新しい経営陣となった東電が今後どれだけ組織の対話力を強化、国民との対話を促進できるのかが最大の課題である。原発の再稼動の問題における政府の対話力も今大きく問われている。

孫子は戦争を国家の存亡を掛けた一大事業と考える。国家の事業戦略をどう実現するのか、そのために全てのステークホルダーをどう動かすのか、国家の対話力をどう行使するのかを徹底的に追求した書と言える。

言い換えれば、国家の対話力の延長線上に戦争を考える。著書の中で「戦争は、他の手段をもってする政治の延長」と述べた西の孫子とも揶揄される「戦争論」を記したクラウゼビッツの考え方と通じるところがある。