リーダーの対話力は格闘技(孫子を実践的に読み解き直す4)

孫子に「善く戦う者は、人に致して人に致されず」とある。

戦いに勝つ者は相手を動かすが、相手には動かされないという意味である。戦いとは相手を動かすか、相手に動かされるか、ギリギリのところで勝負を競う。

リーダーの対話力の本質も、正に「人に致して人に致されず」である。

その本質は格闘技と言っても過言ではない。対話の中で相手が繰り出してくる言葉、視点、文脈、考え、議論などを交わしながら反撃、共感を醸成する一方で恐怖感を煽り、相手の意識に揺さぶりを掛け動かす。

リーダーの対話は相手を動かすことに集中する。

リーダーとしての対話力の是非が最も顕著に現れる一つの場がトップがマスコミの取材を受けている時である。如何に記者に「致されず」に記者を「致す」かがリーダーの対話力のバロメーターになる。

記者の評判の良いトップが必ずしも対話力が高いとは限らない。往々にして、記者の評判が高いリーダーほど、記者に致されている場合が多く、記者にとってはスクープが取れる好都合な相手なのである。

取材は何も記者が求めている情報を与えるだけの場ではない。トップとして企業や組織の方針、考え、思い、政策をしっかりとマスコミを通じて世に知らしめることが本来の目的である。

ところが厄介な事に、こちらと記者の取材における利害が必ずしも一致するとは限らない。

新商品やサービスなどに関する話ならまだしも、クライシスなどの有事における事業戦略の見直し、世論を二分する政策方針の選択などのキツイ話になると取材を受ける側、する側で利害が真っ向から対立する場合がよくある。

ここをどう仕切るかがリーダーの対話に求められる、その力が試される。