「強かな」立ち位置とは何か? 戦略コミュニケーションの視座から考える

グローバリゼーションという異種格闘技戦が国内外で本格化する中でリーダーも企業も「強かな」立ち位置をつくることが生き抜くための鍵を握る。そこで重要なことは強かな立ち位置をつくれるだけのしっかりとした“根っ子”があるかどうかである。根っ子のない立ち位置などはこのグローバル化という旋風に晒されれば、どんなに規模が大きく、有名で実績があったとしても「あっ」という間に吹き飛ばされてしまう。
“根っ子”とは、そのリーダーや企業が持っている独特な感覚・発想・表現である。強かな立ち位置を持っているリーダーや企業には、必ずこの独自な“根っ子”がある。
戦略コミュニケーションの視座から言い換えると受信・戦略・発信である。所詮、人間も企業もその生存活動を煎じ詰めれば、この3つの機能に絞り込める。
先ず、どう今の世界を感覚(受信)するか、それに対してどう発想(戦略)するか、その発想したことを実現するためにどう表現(発信)するか。この3つの機能を独自性を活かしどのように設計し、そのプロセスを確実に仕切るかがリーダーにとっても、企業にとっても強かな立ち位置をつくるための必要不可欠な“資質”である。

日本のリーダーや企業はこれから国内外でその立ち位置の「強かさ」がますます問われてくる。その“根っ子”は借り物では用をなさない。日本特有の価値観の中で培ってきた独自の“持ち味”から「感覚する」「発想する」「表現する」ことがどうしても必要になってくる。日本のリーダーや企業が世界に伍して行くには、その“持ち味”を遺憾なく発揮できるところで勝負するしかない。

そもそも「強かさ」(したたかさ)とは何か?同じ漢字でも「強さ」(つよさ)とはそのニュアンスが違う。英語には「強かさ」に匹敵する表現が見つからない。StrongやPowerful ではどうもしっくりこない。これらの用語はその力の行使が直接的、直線型であるのに対して「強かさ」はより間接的、曲線型であるイメージを持つ。
あえて言えばResilience(弾力性がある)とFlexible(柔軟性がある)の要素を加えると近似的になる。「強かさ」には狡賢い、正直でなない、一筋縄ではいかないなどのネガティブな要素とプロセスはどうであれやり遂げる、めげない、てごわい、最後は勝つといった積極的な側面があり、これらの要素が渾然一体となっている。
「強かさ」とは欧米流の考え方では完全には捉えにくいニュアンスを持っているのかもしれない。何れにせよ、「強かさ」の本質をしっかりとおさえ、自らの“根っ子”の部分を見極めることである。強かに感覚するとは何か、強かに発想するとは何か、強かに表現するとは何か。
絶えず自問自答する。その中から「強かさ」を体得する道筋が見えてくる。

「強かさ」と問われると、何時も思い出す語句がある。
禅の言葉である。
それは「融通無碍自由自在、随所に主となれば立処皆真なり」である。
どんな場合でも、どんな状況でも、どんな時でも、誰に対しても、何事にもとらわれず柔軟に主導性を発揮するという意味である。
仏教に影響を与えた紀元前4世紀の中国の古典「老子」がある。その中でこの禅の言葉の本質を「究極の強かさの象徴は“水”なり」と表現している。
老子は水の「強かさ」を3つの特徴でまとめる。
① 水はどんな容器にも自らの形を合わせる。究極のフレキシビリテーを発揮する。
② 水はいざという時は大きな岩をも削り取る力を創出する。
③ 水は周りにとって無くてはならない存在であるのに自己主張はしない、威張らない。
ある意味で、そこには東洋的な視座からの「強かさ」の本質が示されている。
誰に対しても、どのタイミングでも、どの環境でも融通無碍自由自在に期待に応える。
しかし、周りの言いなりになっている訳ではない。いざという時には大きなインパクトを与える力を発揮する。
結果として、「無くてはならない存在」になる。でも自分は偉いぞと主張せず威張らない。

今後、企業のグローバル生存を賭けた立ち位置の戦いが始まる。日本のビジネスリーダーや企業は日本人特有の感度、感覚、発想をベースにその立ち位置を作り込むことが求められてくる。欧米流とは違った独自の強かさを発揮できる立ち位置で勝負することが至上命題になる。