選挙戦略コミュニケーションにおける“土俵”(争点)の作り方とは(2)

総選挙へのカウント・ダウンが始まる中で、今度の選挙の土俵あるいは争点がまだ見えてこない。
そのような状況の中、自民・公明は追加経済対策として15兆円に上る財政支出に合意、それに対して民主党は21兆円規模の緊急経済対策を決めた。いよいよ解散総選挙を意識した動きが出てきた。

しかしながら、与党や民主党の追加経済対策案を見ると、

“どっちが金をもっと支出するか”

といったところで競っている印象を与える。確かに、こまめに新聞を読んで、見比べれば内容の違いがあることは分かるがほとんどの有権者は、双方の経済対策案を読み解き、比較検討するほど暇ではない。それよりも、“政治不信”という背後霊にとりつかれた自民、民主を見ながら“選挙戦へのアピール合戦”と冷ややかに感じているのが実際のところだろう。

選択可能なしっかりとした将来に対する“選択枝”を与えるのが政治の重要な国民に対する使命である。
日本の政治は国民にしっかりとした“選択肢”を与えることに、もっと真剣に努力してほしいものである。
“選択肢”を明確にするとは、土俵や争点を明確にすることである。

今回の追加財政支出の場合、3つの視点からもっと争点を明確にできる。

1.財源の違い
大幅な財政出動となれば、税金の更なる支出を意味し、国債の発行で手当てすれば将来世代への借金の更なるつけ替えである。将来世代にさらなる負担をかけることを良しとしない感情は間違いなく人々の意識の底流にある。どれだけここで明確な対立軸をつくるかである。

2. 「支出を変える」 vs 「支出を増やす」
有権者の意識の底流には「支出を増やす」というよりも、「支出を変える」ことを希求しているように思える。
従来の“景気対策”が“企業を潤し”、結果として“国民の生活が守られる”といった流れをどれだけ有権者は納得しているか甚だ疑問である。

これはあくまで“感覚”レベルの話だが。道路より医療へ、新幹線より治安へ、ダムより年金へより身近な生活のところに「支出を変える」ことを人々は求めているように思える。

“身近な生活が壊れている”といった実感が今国民の意識の中に深く浸透している。
オバマも大統領選挙中に「税金の使い方を少し変えるだけでアメリカはよくなる」と言って多くの国民の支持を得た。どれだけ「支出を変える」といった視点で追加財政支出を意味づけられるかがポイントになる。

3. 「政治と金」の問題は、実は「支出を変える」問題
「政治と金」の問題は、避けては通れない。7割以上の人々が政治不信をとなえている。
西松建設の献金問題に端を発し、「民主党よ、お前もか!」といった小沢騒動、自民党の二階騒動など政治に対する人々の疑惑は頂点に達している。ある意味国民の関心事であるこの「政治と金」の問題を有権者に対してもっと意味づけることが必要である。

これを単に政治家の違法性、倫理性の問題とか、企業不正の問題とかに留めない。
国民が「政治と金」の問題でもっとも大きな被害を受けるのは、国民が自らの生活を守るために政府に預けた「税金」の使い方がこの「政治と金」の問題によって“歪められる”ことである。

本来ならば、医療、年金、教育、治安など身近な生活のところに使われる税金が政治家の利益誘導により、不必要な建設土木に使われることである。今、国民が政府に預けている“お金”に対する認識が大きく変わりつつある。税金だけではない、年金や健康保険などの保険料も国民が政府に預けている“お金”である。

自分たちが政府に預けた“お金”が“ヤレヤレ詐欺”のように、生活を守るところ以外に勝手に使われてるといった“感覚”が日増しに広がっている。「政治と金」の問題はまさに「支出を変える」問題と直結しているということをしっかり認識してもらうことによって国民の関心の高い「政治と金」の問題を、争点設定に関連付けることができる。