選挙戦略コミュニケーションにおける“土俵”(争点)の作り方とは(1)


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2003年から2005年まで民主党の選挙戦略コミュニケーションの策定にかかわってきたが、
経験上、“土俵(争点)”を先に設定した方が選挙に勝つといっても過言ではない。

一旦、土俵を相手に設定されてしまうと、その相手の土俵で戦わざるを得なくなる。
オバマもマケインに先んじて“Change”という土俵を設定した。
結果はオバマの敷いた土俵に乗らざるを得なかったマケインが敗北する。

日本でも2003年の衆院選挙では民主党がマニフェストを旗頭に「政権選択」を土俵に設定、勝利をものにする。2004年の参院選では「年金一元化Yes or No」を土俵に民主党が自民党にせまり勝利する。
反対に、2005年の衆院選では「郵政民営化Yes or No」という土俵を小泉総理が演出、空前の勝利を手にする。
2007年の参院選はXX選挙と命名されないほど、民主、自民両党とも土俵設定ができず、閣僚の失言、辞任などの敵失によって、更には地方重視、地上戦重視の小沢路線によって民主党が勝利を収めるといった構図であった。

今度の衆院選は2003年から始まった自民党VS民主党、政権を争っての「天下分け目の戦い」となる。しかしながら、今までの選挙と比べるとかなり不確実性が増している。その中で民主、自民双方とも”争点“設定が見えずに悩んでいる。どちらが先に争点(土俵)を設定できるのか。
あるいは、2007年の参院選のように双方とも土俵を設定できず、どちらかが敵失勝利をおさめるのか。先がなかなか見えにくい。

 的確な土俵、あるいは争点を設定するためには、まず、”ある感覚“が必要である。
目の前で起こっている様々な事象、一見、なんのつながりもないように見える事象の背後に、それらの事象を結びつける共通する”スジ“を”読み解く感覚“である。
”スジ“とは一見、無関係な個々の事象の背後に隠れている”ひとつのつながり“といってもよい。
その”つながり“が見えてくると、そこから”ひとつの課題“を抽出、設計することができる。
人々が日常目撃しているあらゆる出来事、事件、事象などを”ひとつの課題“で意味づけることである。

イラク戦争の泥沼化、医療制度の崩壊、リーマン・ショックに始まる金融危機などの事象を、オバマは

”従来の延長線上ではダメなのだ。Changeしなければダメなのだ。“

という課題で意味づける。これは選挙戦略コミュニケーションの要となる感覚である。
多くの一見つながりのない事象に共通する”ある課題“を想起する感覚である。そしてその”課題“をどう乗り越えていくかという”ストーリー“を構想する感覚でもある。これはアップルのステイーブン・ジョブが”※Connecting the dots”と表現している能力に近い。見える“点”と“点”を見えない“線”で結びつける能力である。“意味づける能力”と言ってもよい。

課題とそれを乗り越えるストーリーが直感できれば、あとは科学的に定量、定性調査を行い、その裏づけをとる。具体的な土俵や争点の設計のステージに入る。いろいろな出来事や事件などが、人々の意識の中で“ひとつの課題”によって意味づけられると、そこに土俵ができる。意味づけによって人々の認識は変わり、意識・行動変化の大きな起因となる。“意味づけが人を動かす”コミュニケーション力学の原理・原則である。


※”Connecting the dots”
米国スタンフォード大学における卒業式でのスピーチから(全文はこちら)