自分をポジショニング(POSITIONING)する ~その要は、どこで貢献できるか~

「学問のすすめ」は、近代社会の中で生きていく上で“自分をどうポジショニングするか”を説いた書であるとも言える。

ポジショニングという言葉はもともとマーケテイングの用語で、「自社の製品やサービスを他社の製品やサービスと差別化するための、市場での戦略的な位置づけ」であり、その目的は、その商品やサービスを他の製品やサービスに先んじて顧客に選んでもらうことである。よって“自分をポジショニングする”とは、「自分を他人と差別化するための、仕事や生活の場での戦略的な位置づけ」ということになる。そして“戦略的な位置づけ”の結果、自分を他人に先んじて選んでもらうということである。職場であれば、重要プロジェクトなどのメンバーや重要ポストなどに選ばれるということである。

福沢諭吉は近代化成功の原動力は多様なスキルや知識を持った多くの人々との間のコラボレーションであることを直観する。

コラボレーションが生み出す力が社会を発展させ、多くの人材を育てる。このコラボレーションの輪に参加できるかが近代社会を生き抜くための鍵であると見抜く。そしてまず“役に立つ”、“貢献できる”力を持つていると認められることが、このコラボレーションに参加できる資格であるとする。

まず参加できる人材として選ばれることなのである。

このコラボレーションに参加できて、はじめて自分の才能を開花でき、独立自尊の精神を醸成できると説く。とにかく、“選ばれる”ことが絶対条件なのである。

福沢諭吉が説いた“実学”とは選ばれるための学問といっても過言ではない。つまり、選ばれるために“役に立つ”、“貢献できる”力を身につける学問である。“実学”こそが強かに生き抜くためのポジショニングを可能にすることを福沢諭吉は強調する。

「学問とは、ただむつかしき字を知り、解し難き古文を読み、和歌を楽しみ、詩を作るなど、世上に実のなき文学を言うにあらず。」

福沢諭吉は鋭くそれまでの学問に対する考え方を否定する。「専ら勤べきは人間普通日用に近き実学なり。」と「日用に近き」学問、つまり日常の生活の中で役に立つ学問の必要を提唱する。

具体的には、「四十七文字、手紙の文言、帳合の仕方、算盤の稽古、天秤の取り扱い等の心得」から地理学、窮理学、歴史、経済学、修身学、など「物事の道理を求めて今日の用を達すべき」実学の習得が肝要であることを強調する。「世帯も学問なり、帳合も学問なり、時勢を察するもまた学問なり。」要は実践の場で人の役に立つ、自分のポジションを見つけるためには実学を学ぶしかないと論破している。

つづく