企業のグローバルな広報活動に求められる事(コミュニケーション百景* 第2回)

茶道の面白いところは、客は一方的にもてなされる訳ではない。 (前回はこちらから)

もてなされる側にも作法がある。亭主側にはもてなす作法が、客側にはもてなされる作法がある。茶道は「動きの芸術作品」と表現したが、もてなす亭主、もてなされる客、お互いにそれぞれ作法を通じて動きをシンクロさせながら数時間に及ぶひとつのパフォーマンスをつくっていくのが初釜の茶会である。

客には正客、連客、詰客とある。正客は茶事の主賓である。主賓である正客の後に次客、三客、四客と連客がつづく。そして連客の中の最後の客が詰客である。客側で重要な役割を担うのが正客と詰客である。

正式には正客だけが茶席で亭主と会話ができる。正客が亭主との動きのやり取りを仕切ると言ってよい。その正客の動きに応じて次客以下連客が動く。

詰客は殿(しんがり)のようなもので全体の茶事の円滑な進行を最後尾から促す役である。これら初釜の参加者の一つ一つの動きがシンクロするに従い“非日常”という感覚に参加者自身が包まれていく。

初釜全体が“非日常”を醸し出す「動きの芸術作品」になるのである。

コミュニケーションの世界でも「動きのシンクロ」は重要である。記者会見、コンベンション、セミナー、国際会議などのイベントを成功させるには参加者の動きをシンクロさせることが最も重要な課題である。イベントの表舞台に出る登壇者などのプレイヤーの動きだけでなく、舞台裏で支えているスタッフの動きとの連動がその成功の是非を握る。うまくいったイベントはスタッフの動きが実にうつくしい。

ところがイベントのようにひとつの物理的な場所で行われるものはまだしも、企業のグローバル広報活動に求められる国境を越えての動きのシンクロは至難の業である。国によってマスコミの反応は違う、国によって広報担当者の視点や感度も違う、それぞれのマーケットでの事業展開に資するメッセージも違う、そして時差がある。これらの壁を乗り越えて動きのシンクロを果たさなければならないのである。これは経験上、結構“しんどい”。

茶道で行われている「動きのシンクロ」からムダのない、美しいグローバル広報を実現するための何らかの発想が出てくると面白いことになる。

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

twitterアカウント:@ShinTanaka