Public Relationsこそ米・ホンダ成功のカギ(戦略コミュニケーションの温故知新* 第12回)

(前回からの続き)次は、アメリカの部品メーカーである。

自動車産業は組み立て産業である。数万点にも及ぶ部品を組み立てている。

現地生産となると今まで取引の無かったアメリカの部品メーカーを開拓することが必要となる。

しかしながら、これは簡単な話ではない。

これも従業員と同じようにホンダ生産方式とホンダ哲学を十分理解し、それに対応出来るだけの生産ラインと労働力の質が米国の部品メーカー側に求められる。

出来るだけアメリカの部品メーカーの採用をはかるが、どうしてもダメな場合は、日本で取引している日本の部品メーカーに米国への進出をお願いすることになる 。

これはこれでいろいろと新たな問題を想起させる。

米国の部品産業を破壊するなどと言って日本の部品メーカーの米国進出への反対運動が起こる。

一方、海外進出に慣れない部品メーカーの日本人駐在員やその家族が大幅に増えることに対する地域社会との軋轢が増えてくる。

いずれにせよ、モノを売ることからモノをつくることになるとより多くのステークホルダーとの関係性が複雑に交差、そこを十分に手当てしないと現地化戦略は間違いなく頓挫する事態に当時のホンダは直面していた。

いずれにせよ、ホンダのアメリカでの現地化戦略を成功させるためには、その実現に資する形で多様化するステークホルダーとの関係性を戦略的に構築して行く事が大きな課題になっていた。

ホンダがアメリカでPublic Relations部門を立ち上げるに至る背景がここにある。

*「戦略コミュニケーションの温故知新」。このシリーズでは一度、原点回帰という意味で私のコミュニケーションの系譜を振り返り、整理し、そこから新たな発想を得ることが狙いです。コミュニケーションの妙なるところが伝えられれば幸いだと考えます。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

☆twitterアカウント:@ShinTanaka