世界で勝つ方程式、戦略コミュニケーションの発想 (2)

「五輪書」という本がある。あの有名な剣術家、宮本武蔵の兵法書である。
齢60歳の時に九州肥後の岩戸山に上り、天を拝し、観音を礼し、仏前に向かい、47年間の剣術修行の真髄をしたためたものである。
読むと次の文に惹きつけられる。「我に師匠なし。今此書を作るといえども、仏法・儒道の古語をもからず、軍記・軍法の古きことをもちいず、此の一流の見たて、実の心を顕す事、天道と観世音を鏡として、十月十日の夜寅の一てんに、筆をとって書初むるもの也。」兵法の本質は全て「自分の内にある」という武蔵の宣言である。心を静寂にして自己との対話の中でその「体験を見極める」と云う武蔵の覚悟である。過去の書籍や教えに一切頼らず、自分の長年の経験の中からのみ掴み取った原理原則を「五輪書」に書き綴ったという武蔵の自負である。

この武蔵の姿勢が戦略コミュニケーションの世界に通じるところに大いに感じ入った。コミュニケーションを戦略実現のための力学として捉えた時、その真髄は実際の経験から弾き出したものでないと実践の役に立たない。本をいくら読んでも、人からいくら教えてもらっても左脳での理解だけでは歯が立たない。目の前の具体的な課題に取り組み、その経験から本質を掴み取る右脳での体得がないと事に対応することができないのがコミュニケーション力学の世界である。

「戦略コミュニケーション」は”造語”である。戦略的コミュニケーションという表現は良く使われるが、大きな違いは”的”がついていない。”戦略的”はあくまでコミュニケーションの中での話になる。戦略性の高いコミュニケーションと言ったニュアンスで、何を持って戦略性かはっきりしない。”的”を外すことで戦略とコミュニケーションは別物でなく、表裏一体であることを示す。戦略があっても周りがその実現のために動くよう影響を与えなければ何事も起こらない。人に影響を与え動かすためのコミュニケーション力学が不可欠になる。人の世である限りこれは「常識」であるが、コミュニケーションは別物という認識が特に日本ではまだ強い。優れた戦略が稚拙なコミュニケーションによってダメになるケースが日常茶飯事に起こっている。戦略とコミュニケーションは不可分なのだと説明をすると頭では理解してくれるが、発想を持つまでには落ちない。やはり、発想を待つまでに落とし込むには”修羅場”とも言える経験が必要となる。

コミュニケーションの世界に関わりを持つこと30年、その体験の中で培ってきた”発想”を表現しようとした際に出て来たのが「戦略コミュニケーション」と言う言葉である。これからグローバル化の波が押し寄せる中で、この”発想”を持つことが成功のためのルールである。英語力、MBA、ビジネス理論をいくら習得しても世界では勝てない。人生を生き抜く上で、企業が事業戦略を実現する上で、国が繁栄する上で必要不可欠な「発想」が戦略コミュニケーションの発想である。

この発想を体得する鍵は自分の内にある。培ってきた体験の中にある。そこから原理原則を捻り出す絶え間ない努力と工夫が必要である。日常の些細な経験の中にも戦略コミュニケーションの発想を身につけるための秘宝は多く隠されている。人生は毎日が修羅場 。その日々の修羅場から”世界で勝つ方程式”を感得するぐらいの気構えが重要である。宮本武蔵の「五輪書」に流れている”姿勢”がここにある。