戦略コミュニケーションの発想から見るリーダーシップ論とは
リーダーシップの本質は意識との戦いだ。それを発揮するには“武器”が必要だ
武蔵と小次郎、巌流島の戦い。上段の構えから木刀を振り下ろす武蔵、それを八相の構えで長刀で迎え撃つ小次郎。
これが自分がリーダーシップ研修をする際の表紙の図柄である。
グローバル化が急速に“侵攻”する中でリーダーシップを求める声がビジネスの世界で再び連呼され始めている。リーダーシップについての議論は今に始まったことではない。この20年、百家争鳴、様々なリーダー論が世の中を賑わした。しかしながら、どうも腹落ちするものが少なく、消化不良気味なものが多い、「べき論」はあるが「実践論」が弱い感が否めない。
この20年、リーダーシップ研修をトップから中堅、若手まで様々な業界で幅広く実施してきた。その中で戦略コミュニケーション®の発想から見たリーダーシップ論はかなりイケると実感している。
武蔵と小次郎の対決をリーダーシップ研修の冒頭に出す意図は、リーダーシップの本質は意識との戦いだ。それを発揮するには“武器”が必要だ。敵をしっかりと倒す手法が不可欠だ。その武器を磨く日々の修練が大事だという視座を知ってもらうためである。
更には、リーダーシップの武器論というよりも“武器”そのものをどう作っていくかに議論のフォーカスを当てることを狙いとしている。
リーダーには人の意識を変え、それを動かす力学が必要だ
そもそもリーダーシップとは何かと聞くと、ビジョン・志・思いなどを持っているという要素説。人間的魅力、尊敬される、公正・公平に思われるなどの性善説。導く、引っ張るなどの君子説などが多く出てくる。試しに、トランプ米国大統領はリーダーかと尋ねると「リーダーではない煽動者」という答えが案外に多い。煽動者と先導者をはっきりと分ける思考である。Leadership vs Dictatorshipである。
リーダーか煽動者かどうか、その定義論はともかくとして、実践的なリーダーシップ論を展開するのであれば、リーダーの使命は「事を起こす」ことであると認識した方が有効である。その起こした事をどう評価するかは別次元の話である。
人の世である限り、自分以外の人間を動かさない限り何事も起こらないのが世の常である。リーダーシップとは人を動かしてナンボの世界なのである。
人を動かす際に立ちはだかる最大の敵は相手の意識である。人の意識の壁を粉砕する武器がコミュニケーションである。
人を動かす方法は他にもある。相手に有無を言わせず動かす“武力”。人間の物欲に訴える財力も然り。法的、組織的なルールなどを決め事として強制する権力は日常的に行使されている。しかしながら、これらの力はそれを行使する際に“反作用”を生み出すという難がある。武力を使えばやり返される。財力は金の切れ目が縁の切れ目。権力は不満や嫉みを買う。この反作用が厄介なのである。
コミュニケーションの力は基本相手の意識に働きかけ納得・共感を得て動いてもらう。よって反作用が少なく、コストパフォーマンスが高い。有史以来、人間が人を動かすために最も使ってきた力なのである。
戦略コミュニケーション®という発想をもつ。人を動かす最強の武器になる
コミュニケーションを理解し合う、意思疎通をはかる、思いを伝える、相手の思いをわかるなど事象面での認識は意味がない。
「人を動かす力」であると意識することが肝要である。1人では生きていけないのが社会動物“人間”の性である。自分以外の人間に動いてもらわないと生きていけない。コミュニケーションとは神様が人に与えた生き抜くための力である。
日頃から空気のような存在であるため、コミュニケーションを力学として意識する事に慣れていない。折角与えられた力を十二分に発揮できないのである。これは非常にもったいない話である。コミュニケーションを力だと意識するだけでリーダーにとって最強の武器を手に入れることができる。
戦略コミュニケーション®とは造語である。戦略とコミュニケーションは表裏一体であるとする発想である。どんなに戦略が良くても、それを実現するために様々なステークホルダーが動いてくれないと実現しない。人を動かすコミュニケーション戦略がなければどんなに立派な戦略も絵に描いた餅である。コミュニケーション無くして戦略無しである。戦略もコミュニケーションもコインの裏表である。これからの戦略づくりは戦略ができてから、コミュニケーションをするのでは変化のスピードに遅れる。動かすステークホルダーの視点を予め抑えながらコミュニケーションの視座から戦略を作り込む時代へと大きく変わる。
個人の世界も同じである。自分の思いや夢を実現させ、人生を生き抜くために自分のコミュニケーション力学を磨きあげることが不可欠である。
戦略のコミュニケーションを持つ。企業も個人も人を動かす最強の武器を手にすることが求められてきている。