コミュニケーションを極めて行くと「強かさ」の本質が見えてくる:戦略コミュニケーションの視座から考える
コミュニケーションを極めて行くと「強かさ」に行き着く。戦略コミュニケーションの発想とは「強かに」生きるための発想である。人間は基本的に3つのことしかできない。「感じる」、「発想する」、「身体を動かす」。“言葉を語る”のも行動である。その行動の一つひとつが周りを動かし、世の中に影響する。結果、自分の人生も動いていく。
戦略コミュニケーションの発想では、この人間の3つの働きを「受信・戦略・発信」と言い換える。つまり、人間活動とはコミュニケーションそのものとなる。そして、コミュニケーションの巧拙が人間活動の「強かさ」を左右する。コミュニケーションは神様が人間に授けた強かに生き抜くための生存力と言っても過言ではない。しかも、コミュニケーションを強かさのパワーとして発揮するための潜在的資質は誰もが持っている。要はそれらをどう覚醒させていくかが勝負である。
ところが、世の中を見ると、強かに生きている人もいれば、そうでない人など千差万別である。この差はどこから来るのか? それは、ズバリ「受信」のところで勝負が決する。つまり、何を感覚するかで、何を発想するかが出てくる。何を発想するかでどう行動するかが決まる。重要なのは眼の前で起こっている事象・事態をどう感覚するか、そこで独自の世界観を持てるかどうかが出発点となる。それによって独自の発想が生まれ、最終的には行動としての「強かさ」を紡ぎ出す。自分の感覚を磨き鍛えることが人生を面白くする。
そこで、強かな“感覚”をどう鍛えるかについてひとつの工夫を紹介したい。
心を“ゼロ”にする
コミュニケーションの要諦は相手を知ることである。完全に相手の身になって発想することができれば相手を動かすことは容易になる。
ところが相手を知ることを一番邪魔する最大の敵は自分である。
自分の好き嫌い、偏見、思い込み、利害などの“煩悩”が邪魔して、相手を知ることを阻む。実績をあげて成功すればするほど自分の我儘度合に拍車がかり相手を素直に受け入れられなくなる。自分の“心”ほど自由にならないものはない。
思い込みは、ある意味ブレないリーダーに取っては重要な資質でもあるが、一方で相手を知る上での障壁ともなる。ここをどうバランスをとるかが肝要になる。そのために自分の心をマネージすることが大切になってくる。相手との対話の前に先ずは自分との対話が重要になる。
それには心を“ゼロ”にする工夫を考えることである。すると相手が見えてくる。「見える」というより「観える」。相手の背後にある見えない風景が鮮やかに観えてくる。そもそも“空気を読む”とは見えないものを見抜くことである。相手がどのような視点や発想をもっているのか。どのような世界観を抱いているのか。どのような相手から影響されているのか。どのような課題を抱え込んでいるのか。それにどう対応しようとしているのか。などなどがジワジワと見えてくる。
概して、優れたリーダーは自分との対話のために必ず何らかの“儀式”を持っている。独自の儀式によって心を“ゼロ”にする工夫をしている。
石川播磨重工、東芝を再生、経団連会長になった“メザシの土光さん”の異名を持つ土光敏夫氏などは早朝お経を唱え、メザシの朝食を摂る。
これが土光流の儀式である。早朝ランニング、呼吸法、ストレッチ、茶道など身体を動かす儀式などは良く聞く話である。
ある業界大手のトップは「スケジュールを書かない手帳」をひとつの儀式にしている。手帳に気づいたこと、新たな発想や経験、感動したことなどを毎日こまめに書き綴って行く。1年経つと新たな手帳を購入、今度は古い手帳の1年前の日付の内容を新しい手帳に書き移す。もちろん、取捨選択をしながら書き移し、新たな発想や考えは書き加える。これは1年前の自分との対話である。
もうひとつ面白い例を挙げる。2005年、俗に言う「郵政選挙」に財務省を辞めて立候補するも落選、2009年の政権交代選挙に当選するまでの4年間地元行脚をした政治家の話である。先輩議員から「お前は人を見定めるきらいがある」と忠告される。財務省での仕事柄、人と会うと自動的に相手を見定めてしまう。これが非言語で相手に伝わり印象を悪くする。そこで考え出したのが「ラブラブ光線」である。
応援者の方々に挨拶行脚する際にこのラブラブ光線を放射するのである。相手がドアを開けた瞬間に放射する。どんな人が出てこようが「I LOVE YOU」と心に言い聞かせ放射する。これはなかなかの難業である。しかし、彼は6ヶ月でこの「ラブラブ光線」を完成させる。
心の底から思い込むと不思議なもので非言語を通じて相手に伝わる。人間は初めの10秒で初対面の相手の印象を決めてしまう。最初の10秒で相手に好印象を残すことが重要である。
「世界は我々が見ているものであるが、しかし同時に“我々は世界の見方を学ばなければならない”」
「ヘーゲル以降」を生きる哲学者として異名をもつM.メルロ・ポンティの言葉である。
欧米化、グローバリゼーションの風潮の中で、世界に勝つための方法論だけでなく、世界観までも借り物になっている日本のリーダーが目立つ。一見、聞こえの良い世界観を唱えるが、中身はグローバルから借りてきた横文字の言葉で羅列されているだけである。
方法論は客観的に判断、取捨選択をすれば良いが、それらを使い何を実現するのか、それによって何が変わるのかという自分の世界観は借り物ではダメである。強かさの本質は先ずは自分の目の前で起こっていることをどう見るかである。そこが借り物では全てが崩れる。感覚を磨く。事態を直覚する。知識の呪縛を排除する。自分の心をゼロにする。ここに強かさを発揮する真理がある。
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