「信頼をする」のではなく、「信頼をつくる」(戦略コミュニケーションで斬る*第6回)
「信頼をする」のではなく、「信頼をつくる」。
あるスポーツ・コメンテーターがザッケローニ監督は選手を信頼しているから日本はサッカーアジア大会で優勝できたと言及した。これは逆である。重要なことは監督が選手を信頼するのではなく、監督が選手に信頼されることである。
監督が選手から信頼されているから、選手は監督の戦略に従い一生懸命仕事をする。
では監督は選手から信頼されるためには何をするのか。
ザッケローニ監督は
「選手のスキル、テクニック、技術を知るだけではダメ、選手の性格を知らないと個々の選手に何を期待できるかわからない。」
と言っている。ここで重要なのは、選手に何を期待できるのかを見極めることである。
ホンダの創始者本田宗一郎さんが
「人生は“得手に帆を上げて”生きるのが最上。会社の上役は、下の連中が何が得意であるかを見極めて人の配置を考えるのが経営上手というものだ」
と語っている。これは言い換えると、個々の選手の強みを把握、何を期待できるかを見極め、戦略実現のための選手の配置を考えるということである。これによって選手は自分の強みが活かされているという自覚が生まれる。これが監督への信頼につながる。
選手との日頃のコミュニケーションを通じて、個々の選手から何を期待できるのかを見極めるザッケローニ監督の努力が優勝に結びついたと言える。
本田宗一郎さんは一方で
「社員の方も“能ある鷹は爪をかくさず”で、自分の得手なものを上役に申告することだ」
とも言っている。選手の方も、自分の得手、強みを監督にしっかりと認識してもらうことが重要。しかしながら、その得手・強みは自他共に認められるものでなくてはならない。独り善がりのものでは「能なし鳶(とんび)は爪をかくさず」になってしまう。
自分に何が期待されているのか、自分はその期待に何で貢献できるのか、その貢献が自他共に認められるためにはどうするか、その中で自分の立ち位置をしっかりつくることが求められる。
そもそも信頼をつくるとは双方向的なものである。
一方が他方に信頼しても他方からも信頼されなければまったく意味がない。ただし、双方向的とは言え、やはり、先に「信頼をつくる」ことを仕掛けるのはリーダーの仕事である。
信頼の醸成はまさにリーダーシップ・コミュニケーションの本質である。
*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。(前回の「戦略コミュニケーションで斬る」はこちらから)
~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~
田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長
1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。
☆twitterアカウント:@ShinTanaka☆
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