「あるべきメッセージの姿とは」クライシス・コミュニケーションの視点から(5)

クライシス・コミュニケーションの視点から、小沢民主党代表の3月4日の記者会見メッセージをシミュレーションする!

1.辞任を発表する。事実については調査中であるが、その事実はともあれ、国民が“疑念”を抱くようなことになってしまったことに謝罪する。早く国民の“疑念” を払拭するために、早急に新たな民主党代表を選出するために、自らがリーダーシップをとって動いていることを示す。従来より民主党のマニフェストでうたっている公共事業受注企業からの献金全面禁止などの法制化を本格化することも併せて発表する。

ここは当事者意識をもって事にしっかり対応していることを示すことが重要。被害者は国民であるという認識をしっかりもち、“政治不信”という国民への被害を早く食い止め、再発防止のアクションをとる。

2.今回の検察の動きは“異例”であることを、あくまで客観的に説明する。しかし今はとにかく、国民の中に急速に広がりつつある“政治不信”という被害拡大を止めることが最重要課題であることを伝える。辞任し、新しい代表を選出することが、この“被害”を食い止める唯一の方法であることを述べる。

とにかく国民への“被害”拡大を止めることが最優先課題として位置付ける。今回の調査の異例性については、あくまで客観的なトーンで話す。“不公正な国家権力”、“検察権力の行使 ”、“民主主義を危うくする”などの主観的発信は慎む。通常、このようなケースの場合、マスコミや有識者が騒ぎ出すので、第三者からの発信にまかす。

3.責任の所在に関しては、慎重に対応する。事実確認がまだ不透明な状況である限り、“肯定”も“否定”もしない。あくまで、現在調査中。事実関係が判明した段階で責任の所在を明確にすることを伝える。いずれにせよ、国民への“被害”の拡大を止めることが最優先課題であることを強調、無実であることは信じているが、辞任することが唯一の方法であることを繰り返す。

事実関係が明確になるまでは、国民が抱く“疑惑”は晴れない。事実関係が固まるまでには時間がかかる。その間、国民への“被害”は拡大する。とりあえず、この段階では“辞任する” というメッセージしか通用しない。ここで気をつけなければならないことは、“違法ではない”とか“法的には問題がない”ことを強調しすぎないことである。リーガル・コンプライアンスの視点だけで主張しても藪蛇。 “政治不信”という国民への“被害”を何としても食い止めるための辞任、この引き際の良さに国民感情はなびく。このようなソーシャル・コンプライアンスの視点をもつことが重要。

4.質疑応答が大事。日頃の記者会見での質疑応答のトーンでやる。いつも笑わないのに変に笑ったり、いつも無口なのに多弁になったり、今までとは“感じ”が違うというのはご法度。マスコミや世間は表情や話し方などの“非言語”を読む。多弁は“失言”につながる。

非言語から発信されるメッセージと言語から発信するメッセージを一致させることが肝要。不一致は“不信”を生む。また日ごろの“感じ”と異質感を与えないこと。

5.上記のメッセージが小沢代表だけでなく、すべての民主党議員にも共有され、発信される。テレビ取材を受ける民主党の議員が発信するメッセージが、小沢メッセージと一貫していることが鍵。

メッセージの一貫性を保つためには、記者会見の場だけではダメ。その後、あらゆる場面で他の民主党の議員は、この件で意見を求められことになる。マスコミ報道に晒されることになる。そこでしっかりと一貫性のあるメッセージ発信をすることが求められる。ただし、メッセージが“適切である”ことが前提条件。クライシス・コミュニケーションの視点から見た小沢代表の今回の記者会見でのメッセージは“適切ではない”。これでは一貫性があればある程、逆のネガのレバレッジが効いてしまう。この事件の前までは“一貫性のある民主”VS“バラバラな自民”といった構図で国民がとらえていたのが、この事件後は“代表に何も言えない民主”VS“首相に物申す自民”の構図に変わった。給付金に反対、総理に異をとなえる自民のほうがまだ“健全じゃないの”といった印象である。

いずれにせよ、実際の対応はクライシス・コミュニケーションの視点以外の観点からも判断されるものなので、“絶対にこうあるべきだ”とここで主張するつもりはない。あくまでクライシス・コミュニケーションの視点からアドバイスをすれば、“こうなる”と言うことである。