中国のレピュテーション・マネジメントを問う ~“したたかさ”を失った中国の戦略コミュニケーション~

そもそもメッセージには攻撃用メッセージと迎撃用メッセージがある。攻撃用は直接相手に打ち込むメッセージである。迎撃用とは、相手がメッセージを出すことを事前に察知、こちらから先に発信することによって相手の発信を封じるものである。仮に相手が発信してしまっても、そのメッセージの力の作用を中和してしまうようなメッセージを発信するのもこの迎撃タイプである。

尖閣諸島問題において中国が繰り出したメッセージはすべて日本への攻撃用メッセージである。当然ながら日本国内の国民感情の反発という反作用が効いてくる。中国にとっては、この反作用は想定内であり、さして問題ではない。

想定外だったのが、日本向けに発信した攻撃用メッセージが反中国的な国際世論を誘発してしまったことである。この反作用に中国は一撃を喰う。

確かに中国の国内世論を考えれば、中国政府としては日本に対して強いメッセージを発信せざるを得ない状況は理解できるが、やはり今回の中国のコミュニケーション対応には慎重さが欠けていた。

本来ならば、日本に対して強いメッセージで攻撃を仕掛ける一方で、国際世論の反発を抑え込む迎撃用メッセージを国際社会に発信すべきであった。その時に発信すべき迎撃用メッセージがないのであれば、日本に対する攻撃はある程度慎むのが戦略コミュニケーションの視点からは得策であった。

中国が最も気にしなければならないことは、国内の世論の動向だけでなく国際世論の動向である。この2つの“世論”をどうバランスさせるかが中国のコミュニケーション上の国家的課題である。

国内世論を刺激せず、一方で国際社会が中国に対して抱いている潜在的な不安の声を顕在化させないことである。今回の中国の対応を見ているとここで明らかに失敗している。正直なところ“中国のしたたかさ”がまったく消えてしまっている。