コミュニケーションの正攻法、「根回し」のススメ(戦略コミュニケーションで斬る*第13回)

「根回し」と云う言葉がある。

時々によって良くも悪くも使われる。

会社生活の中ではよく「役員会の前に役員メンバーとの根回しをしっかりやれ」とか日本のビジネスマンにとっては必要不可欠なスキルとして扱われることもある。

一方、根回しによるコンセンサス重視のため、海外では日本の意思決定の遅さの元凶ととらえられることもある。

この「根回し」と云う言葉、コミュニケーションの視点から考えると結構「活けた」手法である。

コミュニケーションにとって「メッセージの一貫性」と「サプライズ発信の最小化」は基本中の基本である。

この2つができていないと信頼醸成が出来ず、コミュニケーションそのものが毀損する。

サプライズ発信を使う政治家として小泉純一郎さんがいる。

サプライズで支持を得るというやり方は基本的にはコミュニケーションの王道ではない。

一種の奇襲戦法である。

奇襲と云うのは勝敗を決めるような場合に有効な手法である。

孫子の兵法でも「兵とは危道なり」と言って、敵の想定外を攻める奇襲が勝敗の鍵を握ると主張する。

勝敗の白黒をつけるような選挙のような戦うコミュニケーションではサプライズと云う奇襲戦法は効果はある。

しかしながら、サプライズ発信はある程度コミュニケーションの天才的なセンスが求められる。誰でもができるわけではない。

実際の戦いでも奇襲は天才でなければ使え得ぬ技と言われている。奇襲で平家を滅亡に追いやった源義経然りである。

やはり天才で無い普通のリーダーはサプライズを使わない正攻法で攻めるべきである。

その際に役に立つのが「 根回し」という日本固有の発想である。

方針や政策について関係者への根回しをしっかりやる事によって、関係者の間でのサプライズを最小限に抑える。

結果、反動を和らげ、方針や政策の実現性を高める事ができると同時にメッセージの一貫性を保ち易くなる。

根回しのコミュニケーションレバレッジが効いてくる。

*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

☆twitterアカウント:@ShinTanaka