「国益」に繋がるメッセージ発信~先代ローマ教皇が持つ、相手視点に立つ強さ~(コミュニケーション百景 第16回)

先代のローマ教皇パウロ2世は、教皇として始めてイスラム社会に対して十字軍のイスラム世界への遠征を過去の過ちとして自ら認めた。

このメッセージはキリスト教世界とイスラム教世界の間で大きな障壁となっていた「歴史認識」のギャップを一気に縮めた。

これによりローマ教皇とイスラム教世界との間には新たな関係が生まれ、それを軸にパウロ2世は自らが推奨する平和外交をより効果的に展開することができた。

相手視点に立てるということは“強さ”である。自己視点に立ってしまうということは“弱さ”である。

日本人も日本の国もメッセージ免疫性低下の無自覚症候群に陥いている。その意味での“弱さ”が目立つ。

一方で、繊細なメッセージでも知覚できる能力を日本人や日本は持っている。

本来、日本人は相手視点に立つことに秀でた“気配り”の伝統的なメッセージ感度をもっているのだ。

日本人が育んできたきめ細かなメッセージ感度は多様性のある現実にうまく適応することを今までも可能にしてきた。

コミュニケーションという視点に立った日本的な“強さ”の創造が今、強く求められている。

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

☆twitterアカウント:@ShinTanaka